「テクノロジー経済」をめぐる週刊の洞察の第二回をやります。今回は「あなたが会議室で『プラットフォーム』と言えばかっちょよく聞こえることはもう絶対ないぞ!」という話です。
TL;DR
”プラットフォーム企業”はフロンティアを開拓し尽くし陣地の奪い合いをはじめました。プラットフォーム自体は飽和しています。その中を流通するコンテンツが輝きを増しています。
Apple as a Service
今週はAppleがMarch 2019イベントを行いました。Appleは「これからは得意のハードウェアだけでなくもっとサービスに重点を起きます」と宣言をしました。発表はサービスに限られていてサブスクリプション(定額制)のものが大半を占めました。“Apple as a Service”という表現も散見されます。
Appleは現状iPhoneへの収益依存が高いです。だけど、iPhoneの販売台数は頭打ちになっていて、成長のストーリーが描きづらくなっていました。だから新型iPhoneの販売価格を上げることで、1台あたりの収益を拡大する戦略にシフトしてきたわけです(『モバイルの次のトレンドを探せ、IPhoneが漂わす危険信号』)。この数年このようなやり方で、収益は横ばいのままながら、利益率は上昇してきたのです。しかしこのやり方には限界があります(もしかしたらもう限界かもしれません)。販売価格がせり上がり続けると、ロイヤリティの高いAppleのユーザーと言えども、やがて逃げ出してしまうでしょう。
ということで、サービスへの移行なのですが、Appleが出したメッセージのなかで印象的なのが「あなたのユーザー行動をトラッキングする広告のようなものを我々は提供しない。質の高いサービスを定額制で提供します」ということです。Appleの反広告的な姿勢は2016年初頭にデジタル広告部門を解体したときから始まりました。Appleは最初のうちはGoogleやFacebookのように広告で稼ぎたかったはずだし、しかも重要なモバイルOSをもっていたのでその潜在能力があったのですが、おそらくこの分野が好きではなく余り得意でもありませんでした。だからAppleは正しいことを言っているようなのですが、結果的に生じたポジションに応じたお話をしているのです。
Via Apple Newsroom
で、少し横道にそれますが、発表された定額サービス群の支払いを担うのがApple Payですが、それを補完するクレカである「APPLE CARD」を今回発表しました。これはざっくり言うと「Apple Payと連携するクレジットカード」です。ゴールドマン・サックス、マスターカードと提携しており、今年の夏には世界中で使用できるようになるようです。Apple Cardには、年会費、インターナショナルフィー等の手数料がなくなり、すべての買い物に対して2%のキャッシュバックが伴うと説明されています。
Apple CardはiPhoneのApple Walletアプリに組み込まれる予定です。ユーザーは Walletアプリ内で自分の支払い記録をトラックできるようになり、Apple Cardは週ごとおよび月ごとの支払いのサマリを提供してくれるようになるそうです。
料率、キャッシュバックが好ましいのは確かですが、とはいえ、この時代にクレジットカードを生み出すのは、全くイノベーティブではないのではないか、というのが素直な感想です。依然として取引(トランザクション)の処理はレガシーなクレジットカードのインフラに依存しています。こうなるのには北米の規制の制約があるはずで、そのせいで米国勢は中国に大きく溝を開けられていますよね。
アジアがかなり先を進んでいます。日本は追いつけるでしょうか。駄文を付けておきます。2017年で少し古いのですが。
Google Stadia
先週はGoogleもStadiaでゲーミングに進出してきましたが、それがクラウドゲーミングサービスだったのが衝撃的でした。まず、ビジネス面で言うと「Stadiaはコンソールを殺すのか」が気になります。
ゲームコンソールビジネスだと、最初にコンソール屋がコンソールを流通させるための莫大なマーケティング費用を負担します。スタジオが開発したタイトルの収益の一部をライセンスフィーとしてとることで、後から儲けるというしくみになっています。基本的には、できるだけたくさんのコンソールを売れば、コンソールユーザーはタイトルをどんどん買っていくので、コンソール屋はどんどんもうかる仕組みです。プレイステーションがセガサターンに勝利したとき、プレステは圧倒的な差を付けていたのですが、そういうふうになりやすいゲームなのです。
仮にクラウドが主流になるのならば、初っ端のコンソールを売るというプロセスがなくなります。ゲームをGoogleのクラウドに載せるということになりますが、じゃあGoogleが税金をどれだけ課すのか? を気にするスタジオが多いでしょう。もしモバイルアプリストアと同じ運営方法になるとしたら、スタジオはすでにストアの税金にムカついているので、一悶着あるかもしれません。最も端的な例はFortniteのエピックの話でそれはここに書きました。
あとはスタジオが大型タイトルを投入するのに足るほどのスケールをStadiaが出せるかが気になりますし、現行のユーザーは中二病感漂うハードウェアに一定のロマンチシズムを感じている人も多いので、そういう消費者を説得できるかなど、Stadiaがクリティカルマスを達成するためのいろいろな課題があるのかもしれません。
技術的なところに触れると、この「WebRTC の通信部分と QUIC スタックの実装をフルスクラッチでしており、日本で多くの会社に採用されている WebRTC を利用したミドルウェア製品の開発者」であるVさんのブログが面白かったです。
Project Stream は “ストリーミング技術の限界を押し広げる” というのがテーマでした。まさにそれを実現したというのが STADIA の発表なのだと思います。
クラウドゲーミングはいろいろな課題があると言われて来ていると書かれることが多いようですが、Chrome や WebRTC や QUIC 、そして YouTube と必要な技術とノウハウを全て持っている Google がやるとどうなるのか、とても楽しみです。
QUICはGoogleが開発した通信プロトコルであり、いまや標準化されています。そしてクラウド技術もまた同社が誇るところで、技術的な課題をどう超えようとするのかは興味深いです。ただ「世界中のどこでも」になるとは思えず、局所的な展開から始めるはずですね。
結論
テックジャイアントが提供するプラットフォームは重要な差別化要因ではありますが、そこは均衡してきています。だから決定的な差別化要因はそこを流通するコンテンツになってきています。UGC(ユーザー生成コンテンツ)はもちろん重要なのですが、同時にハイエンドのコンテンツに重要性を増しています。来週はここに吹いている大きな風である「独占禁止」の話をしようと思います。「経済ニュースのNetflix」を目指している axion のポジショントークに付き合ってくれてありがとう!
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